2024.05.27
メタバーコーディング解析とは?環境DNA等の活用が期待される研究・技術分野も解説
特定領域に生息する生物種同定のために水や土壌をスクリーニングしたり、動物の糞便から食性を解析したい場合などに適した手法の一つに、メタバーコーディング解析が挙げられます。 そこで今回は、機器やアプリケーションのご案内・ご提供を通して研究現場のお困りごと解決を支援するミクセルが、メタバーコーディング解析という手法について解説していきます。 具体的にどのような原理・方法で解析するのかといった基礎知識はもちろん、ご自身の研究に活用する上での注意点、応用が期待できる研究分野の例まで紹介していくので、メタバーコーディング解析に興味があるという研究者様は、ぜひ参考にご覧ください。
メタバーコーディング解析とは?解析原理の概要
まずは、メタバーコーディング解析と、そのもととなったバーコーディング解析の原理や手法の概要について、確認していきましょう。
バーコーディング解析の概要
地球上の生物種の多くは、共通の祖先から分岐・進化したものであるため、その遺伝子上には「生存に欠かせない不変的な遺伝子配列」と「進化の過程で変化した各生物種特有の遺伝子配列」の両方が混在しています。バーコーディング解析とは、このDNAの塩基配列(ゲノム配列)の性質に注目した解析手法であり、試料に含まれるDNAから生物種を推定する方法です。
具体的には、まずDNA配列のうち、近しい生物種間での配列保存性が高い不変的な領域と、各生物種特有の配列である可変的な領域の両方が含まれるエリアを特定します。そして、その領域のDNA配列をバーコードのように読み取り、結果を既存のDNAデータベースと照合することにより、試料に含まれていたDNA配列がどの生物種のものなのかを明らかにしていきます。
メタバーコーディング解析の概要
そしてメタバーコーディング解析とは、バーコーディング解析を応用した解析手法のこと。
バーコーディング解析とメタバーコーディング解析の大きく異なる点は、その試料に含まれるDNAの生物種を「同時に複数特定できるかどうか」というところにあります。バーコーディング解析では、基本的に1つのDNA配列を読み取り・照合することで生物種を推定しますが、メタバーコーディング解析においては、試料に含まれるDNA配列を網羅的に読み取り・照合して、同時に複数の生物種を同定することができるのです。
メタバーコーディング解析の手法が開発される前は、複数の生物種が混在するサンプルを解析するにはPCR、クローニング、形質転換等さまざまな工程を経る必要がありました。しかし、メタバーコーディング解析の手法が確立されてからは、工程が大幅に短縮できるようになったため飛躍的に作業効率が向上し、解析にかかる時間も削減できるようになったのです。
これらの点は、メタバーコーディング解析という手法の代表的な特徴だと言えるでしょう。
【関連記事】プロテオーム解析・プロテオミクスとは?意味や手法について解説
メタバーコーディング解析の基本的な手順
ここまでに見てきた通り、メタバーコーディング解析では、試料に含まれるDNA配列の不変的領域と可変的領域が含まれる配列をターゲットにして読み取り、配列解読を進めていきます。
具体的には、主にDNAからタンパク質を合成するために必要な遺伝子であり、ミトコンドリアDNA上に存在するrRNA(リボソーマルRNA)領域やITS領域を狙って配列を読み取り、次世代シーケンサを使って解析を行うケースが多いでしょう。
なお、ミクセルからお客様へメタバーコーディング解析のアプリケーションをご紹介する場合の大まかな解析の流れは、以下の通りです。メタバーコーディング解析の手順の理解やご自身の研究に導入するかどうかを検討する際の参考として、ぜひお役立てください。
- お客様から受託業者へ、試料となるサンプルを送付してもらう
- 受け取ったサンプルを濾過し、含まれている細胞や組織を濃縮する
- 濃縮された組織からDNA抽出を行い、PCR阻害物質を除去する
- 対象分類群(魚類、哺乳類、菌類等)や特定を目指す生物種に合わせて適切に設計したプライマーを用いてPCRを行い、増幅されたDNAでライブラリ調製する
- 次世代シーケンサを使ってシーケンシング解析を行う
- 5で獲得したシーケンスデータを専用ソフトウェアにインポートし、対象種や解析領域に応じたデータベースと照合して、その結果をお客様へお渡しする
メタバーコーディング解析を行う上での注意点
複数種のDNAが混在するサンプルの解析手法として、非常に有用と言えるメタバーコーディング解析ですが、実施する上ではリスクや注意点もあります。具体的には、サンプルの状態や解析作業中のミス、事故等による以下のようなリスクに留意すべきだと覚えておきましょう。
- コンタミネーションやインデックスホッピングによる偽陽性
- 使用するユニバーサルプライマーによるPCRバイアスの問題
- DNAデータベースが未整備であることにより、偽陰性等が発生するリスク
- 獲得したデータの解析には、4Gb以上の容量のサーバーを用いるのが望ましい など
メタバーコーディング解析を応用できる研究分野は?
近年、メタバーコーディング解析は主に環境DNAの研究分野において、積極的に利用されています。環境DNAとは、海・川・湖等の水、土壌、大気といった環境の中に存在する生物由来のDNA(生物から出た粘液や組織、死体、排泄物等に含まれるDNA)の総称であり、環境中から検出されたこれらのDNAを採取・調査することにより、特定のエリアに生息する生物の種類、数、生物相等を推定するような研究分野のことです。
また今後、さらに安く迅速にメタバーコーディング解析を行えるようになると予想されているため、環境DNAだけでなく医療、生態、農業など幅広い分野での応用も期待できるでしょう。
研究現場においてメタバーコーディング解析の活用が進めば、より多くのDNAの配列データが蓄積されていくため、照合に使われるデータベースも充実していきます。そうなると、より精度の高い解析が行えるようになる他、AIの力を借りることにより、将来的には疾病や生産量などの未来予測も可能になるかもしれません。
【関連記事】【シングルセル解析をわかりやすく解説】メリット・デメリットや基本的な原理とは
「受託の窓口」ならメタバーコーディング解析にも対応可能
株式会社ミクセルでは、主に複数の生物種が混在したサンプルを解析したいとお考えの研究者様に対し、メタバーコーディング解析をご紹介しています。メタバーコーディング解析による解析結果の精度を上げるためには、適切なプライマーの設計、データベースが充実した対象分類群・領域を選ぶ等、解析後の情報活用も考えた上で準備を進めていくことが重要です。
解析の計画はもちろん、解析結果を活用するために必要なサーバー環境の整備に至るまで、メタバーコーディング解析がお客様の研究にとって有用な機会となるように、一貫してサポートさせていただきます。
メタバーコーディング解析に興味があるけど、用意できるサンプルで実施可能なのかわからない、また研究への活用法等について悩んでいるという方も、ぜひ一度、お気軽にミクセルの「受託の窓口」までお問合せください。
研究現場のお困りごとは「受託の窓口」へご相談ください
株式会社ミクセルは、”日本の文化と技術で長寿を喜び合える社会をつくる”ことを理念として、研究者の夢を未来へ届けるための研究支援事業やヘルスケア事業、日本の医療・介護インフラと世界をつなぐための事業を行っております。
そんな私たちが、研究支援事業として運営する「受託の窓口」では、以下のような研究現場のお困りごとを解決すべく、経験豊富なスタッフ陣が最適な受託サービスをご提案いたします。
- 研究する上で必要なデータを解析・取得したいが、どうすれば良いかわからない
- どこに、どんな風に頼めば欲しいデータを得られるのか、必要な予算もわからない
- 解析を依頼したいサンプル数が少なく、他のプロバイダーに受け付けてもらえない
- 結果をきちんと解読できるか心配なので、解析後のアフターフォローまでしてほしい
お問合せ、お打ち合わせにはオンラインで対応しておりますので、日本全国どこの研究室からのご依頼にも対応可能です。データの取得や解析、活用方法等についてお困りのことがございましたら、依頼したいアプリケーションをご検討の上、ぜひ「受託の窓口」までお気軽にご相談ください。